法人にも憲法上の人権は保障される?【八幡製鉄政治献金事件】

憲法
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憲法上の人権享有主体に、法人は含まれるのでしょうか。

判例(八幡製鉄政治献金事件)や学説はどのような立場をとっているのか、検討していきます。

法人にも憲法上の人権は保障される?

性質上、可能な限り保障される(権利性質説

まず、そもそも、なぜ法人の人権享有主体性が問題となるのでしょうか?

それは、憲法上の”文言”が原因になっています。

・憲法第3章タイトル:「国民の権利および義務」

・憲法第11条:「国民は、すべて基本的人権の享有を妨げられない」

・憲法第12条:「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」

このように、憲法上の人権享有主体は、「国民」であると明記されています。

そうであるならば、「国民」でなければ、憲法上の人権は保障されないものと思われます。

しかし、ここで問題となるのは、「“法人”や”外国人”には、憲法上の人権は全く及ばないのか」ということです。

外国人の人権享有主体性については、こちらの記事で解説しています。)

法人は、今や社会においては無視できない存在です。

経済のみならず、政治や宗教、文化などにおいて、法人の有用性が認識されています。

ですから、法人が憲法上の人権を享有する主体となり得るかは、重要な問題なのです。

そこで、判例・学説はどのような立場をとっているのか、検討していきます。

八幡製鉄政治献金事件

八幡製鉄政治献金事件とは、1960年、八幡製鉄株式会社の代表取締役が、自由民主党に対して政治献金をしたところ、これは会社の定款外の行為であるとして、株主が損害賠償を求め、株主代表訴訟を提起した事件です。

ここで問題となったのは、法人の人権享有主体性です。

法人にも、政治的行為をなす自由が憲法上保障されるのかが問題となりました。

これについて、最高裁判所(最大判45・6・24)は、「憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されると解すべき」とし、権利の性質ごとに、保障の有無や程度を判定すべきとする立場をとりました(権利性質説)。

また、学説も、判例と同様にこの立場をとっています。

では、具体的に、法人にはどのような権利が保障されるのでしょうか。

次に検討していきます。

法人に保障される人権は?

・法人にも保障される人権:経済的自由権、国務請求権、一部の精神的自由権など

・法人には保障されない人権:自然人固有の権利、参政権

法人には、性質上可能な限り、人権が保障されることがわかりました。

では、具体的に、どのような人権が保障されるのでしょうか。

法人にも保障される人権

まず、法人にも保障される人権として、経済的自由権が挙げられます。

経済的自由権は、私法上の財産権の基礎を構成しているといえますから、法人にも適用されると考えられます。

次に、国務請求権が挙げられます。

国務請求権は、政府がつくった制度を利用する権利であり、法人であるが故に否定する理由はありません。

また、一部の精神的自由権も、法人に保障されるといえます。

特に、法人の設立目的が、個人の精神的自由権を拡張するためであった場合、法人も精神的自由権を持っているのは当然といえるでしょう。

例えば、宗教法人は信教の自由を有しているといえますし、学校法人は、学問の自由に含まれる教授の自由を持っているといえます。

また、報道機関は、表現の自由を享有しているといえるでしょう。

ところが、ここで問題となるのは、その設立目的以外の活動を法人が行った場合です。

八幡製鉄政治献金事件において、八幡製鉄株式会社は、その法人の設立目的が「個人の精神的自由権の拡張」ではないはずです。(つまり、宗教法人であれば精神的自由権の拡張が設立目的ですが、八幡製鉄株式会社は精神的自由権が設立目的ではないということです。)

ですから、設立目的外の活動ですが、これについても、憲法上の人権として保障されるのかが問題となります

これについて、八幡製鉄政治献金事件最高裁判決(最大判45・6・24は、営利法人である株式会社にも、政治献金の自由が保障されるとしました。

八幡製鉄政治献金事件最高裁判決(最大判45・6・24

・会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動にでたとしても、これを禁圧すべき理由はない

・会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有する

・政治資金の寄附もその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない

法人には保障されない人権

次に、法人には保障されない人権について検討します。

まず、自然人固有の権利については、法人には保障されません。

自然人固有の権利とは、例えば、生存権生命・身体に関する自由などが挙げられます。

そもそも、これらを法人に保障することは、理論上不可能です。

次に、参政権についても、法人には保障されません。

(ただし、ここでいう参政権とは、選挙権・被選挙権など、狭義の意味となります。)

まとめ

・人権は法人にも、性質上可能な限り保障される(権利性質説
 ←判例(八幡製鉄政治献金事件)・学説

・具体的に保障される人権と保障されない人権
 ・法人にも保障される人権:経済的自由権国務請求権一部の精神的自由権など
 ・法人には保障されない人権:自然人固有の権利参政権

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