【図解あり】恵庭事件をわかりやすく解説

憲法判例
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本記事では、恵庭事件の概要と、裁判所の判断(札幌地判昭和42年3月29日)について解説します。

事案の概要

恵庭事件とは、自衛隊の敷地内の通信線を切断し起訴された酪農家が、自衛隊法は憲法第9条に反するため違憲無効であり、無罪であると主張し争った事案。

北海道の恵庭町において、2人の兄弟(A・B)が酪農を営んでいました。

ところが、近隣の自衛隊の演習場からの騒音によって牛乳の生産量が落ちてしまいました。

そこで、境界付近での射撃訓練については、A・Bに事前に連絡することを自衛隊と確約していました。

しかし、ある時、自衛隊はその約束を破り、事前通知をせずに射撃訓練を始めました。

これに怒ったA・Bは、自衛隊の敷地に入り抗議をし、通信線を切断しました。

この通信線を切断した行為について、検察は自衛隊法第121条に基づいて起訴しました。

自衛隊の所有し、又は使用する武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物を損壊し、又は傷害した者は、五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。

自衛隊法第121条

これに対して、酪農を営む2人の兄弟A・Bは、そもそも自衛隊法は憲法第9条に反するため違憲無効であり、自分たちは無罪であると主張しました。

第1項:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第2項:前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

日本国憲法第9条
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裁判所の判断

・自衛隊法第121条を限定解釈→A・Bの行為は構成要件に該当せず、無罪
・自衛隊法に関する憲法判断を回避

自衛隊法第121条の構成要件は、「自衛隊の所有し、又は使用する武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物を損壊し、又は傷害した者」です。

もし、これにあたるとなれば、本規定が適用され罰則が科されます。

札幌地裁は、まず、この自衛隊法第121条の構成要件について限定解釈を行いました。

裁判所は、本規定にいう「その他の防衛の用に供するもの」とは、例示されている「武器・弾薬・航空機」と同等であるほどの重要性があるものでなければならないと、限定的に解します。

「「その他の防衛の用に供する物」とは、これら例示物件とのあいだで、法的に、ほとんどこれと同列に評価しうる程度の密接かつ高度な類似性のみとめられる物件を指称するというべきである。」

そして、これを本件にあてはめると、通信線については「武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供するもの」には該当しないことから、A・Bの行為は自衛隊法第121条の構成要件に該当せず、無罪であるとの判決が下されました。

そして、自衛隊法の合憲性については、本件が構成要件に該当しない以上、その判断をすべきではないと述べます。

「自衛隊法121条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上、もはや、弁護人ら指摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのみならず、これをおこなうべきでもないのである。」

(憲法判断回避の準則については、別記事で詳しく解説しています。)

したがって、本件ではA・Bは無罪となり、自衛隊法の合憲性まで踏み込んだ判断をしませんでした。

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