違憲審査基準とは、国家による人権制約が憲法に適合しているかについて、裁判所が審査をする際に用いる基準のことです。
その中でも、国家による人権制約の違憲性を審査する場合に司法が用いる基準として「二重の基準論」を取り上げました。
(「二重の基準論」については、こちらの記事で解説しています。)
しかし、これだけではあまりに大雑把であり、多様な自由・権利・規制態様に対応できないことが明らかになっていきます。
そこで、「二重の基準論」を前提に、3つの違憲審査基準が主張されるようになります。
具体的には、「厳格審査基準・中間審査基準(厳格な合理性の審査基準)・合理性の審査基準」です。
本記事では、これら3つの審査基準に焦点を当て、解説していきます。
厳格審査基準・中間審査基準・合理性の審査基準とは?
「二重の基準論」
・精神的自由を制限する法令の審査→厳格な審査が用いられる=厳格審査基準・中間審査基準
・経済的自由を制限する法令の審査→緩やかな審査が用いられる=合理性の審査基準
「二重の基準論」を解説した記事の中で、次のような図をご紹介しました。

これは、司法審査の場面において、「精神的自由を制限する法令の審査は厳格に審査し、経済的自由を制限する法令の審査は緩やかな審査で足りる」という説明を図解したものです。
ただし、前述のとおり、「二重の基準論」だけでは個別の事案に対応することは困難であるため、その具体的な基準として、「厳格審査基準・中間審査基準・合理性の審査基準」の3つの基準が主張されるようになります。
では、「厳格審査基準・中間審査基準・合理性の審査基準」とは、それぞれどのような場面で用いられるのでしょうか。
まず、厳格審査基準と中間審査基準については、精神的自由を制限する法令の審査で用いられます。
ですから、「二重の基準論」では、「精神的自由を制限する法令の審査では厳格な審査が用いられる」と説明しましたが、具体的には厳格審査基準と中間審査基準が用いられるということになります。
その一方で、合理性の審査基準については、経済的自由を制限する法令の審査で用いられます。
ですから、「二重の基準論」では、「経済的自由を制限する法令の審査では緩やかな審査が用いられる」と説明しましたが、具体的には合理性の審査基準が用いられるということになります。

(※ただし、実際には、規制態様に応じてもっと厳密な区別がなされるのですが、まずは、この図のようなイメージができればよいでしょう。)
それぞれどのような基準なのか?
では、「厳格審査基準・中間審査基準・合理性の審査基準」といいますが、それぞれどのような基準なのでしょうか。
その答えは、それぞれの基準ごとに、その規制目的とその規制手段の審査における審査の厳格度が異なってくるということです。
まず、目的審査とは、その法律がつくられた目的の重要性を審査することです。
また、手段審査とは、目的と手段の関連性を審査することです。
そして、「厳格審査基準」をとるか、「中間審査基準」をとるか、「合理性の審査基準」をとるかで、目的審査・手段審査の厳格度合いが変わってきます。
ざっくり言えば、厳格審査基準では「規制目的・規制手段の審査は厳格」であり、合理性の審査基準では「規制目的・規制手段の審査は緩やか」です。
具体的にみると、以下の表のようになります。

では、ここからは、それぞれがどのような基準なのか、ひとつひとつ見ていきましょう。
(※ここからは適宜、上の表と照らし合わせながらお読みください。)
厳格審査基準
まず、ある規制を「厳格審査基準」を用いて審査するとなった場合から説明します。
厳格審査基準を用いる場合、その規制目的は「やむにやまれぬ目的」でなければいけません。
つまり、どうしても必要な目的である場合に限って合憲とされるということです。
ですから、目的審査はかなり厳格です。
そして、その規制手段については、「厳密に仕立てられた・必要不可欠」なほど、目的との関連性がなければいけません。
つまり、目的達成のためにはこの手段以外あり得ないという場合に限って合憲とされるということです。
ですから、手段審査もかなり厳格なものとなっています。
中間審査基準(厳格な合理性の審査)
次に、ある規制を「中間審査基準」を用いて審査するとなった場合を説明します。
中間審査基準を用いる場合、その規制目的は「重要な目的」でなければいけません。
「重要な目的」ですから、「やむにやまれぬ目的」までは必要としません。
このことから、「厳格審査基準」よりは緩やかな審査であることが分かります。
また、その規制手段については、目的との関連性に「実質的関連性」を必要とします。
「実質的関連性」ですから、「厳密に仕立てられた」ほどの関連性までは要求しません。
(「実質的関連性」の判断基準として「LRAの基準」が挙げられますが、これは別記事で解説しています。)
手段審査も同様に、「厳格審査基準」よりは緩やかな審査であることが分かります。
合理性の審査基準
最後に、ある規制を「合理性の審査基準」を用いて審査するとなった場合を説明します。
合理性の審査基準を用いるということは、基本的には、経済的自由を制限する法令の審査であるべきです。
合理性の審査基準を用いる場合、その規制目的は「正当な目的」があれば足りるとされます。
「正当な目的」とは、政府の権限内であれば合憲であると解されます。
上記2つの基準と異なり、かなり緩やかな審査であることが分かります。
また、その規制手段については、目的との関連性は「合理的関連性」があれば足りるとされます。
「合理的関連性」とは、その目的達成のために無関係でなければ合憲であると解されます。
こちらも同様、かなり緩やかな審査であり、無審査といってもいいほど合憲とされやすいといえます。
まとめ
・厳格審査基準:規制目的→やむにやまれぬ目的
:規制手段→厳密に仕立てられた・必要不可欠
・中間審査基準:規制目的→重要な目的
:規制手段→実質的関連性(LRAの基準)
・合理性の審査基準:規制目的→正当な目的
:規制手段→合理的関連性