本記事では、社会契約説とは何か、また社会契約説を提唱したホッブズ・ロック・ルソーの考え方について解説します。
社会契約説とは?
社会契約=「市民の自然権」を守るために「国家」と結ぶ契約のこと
そもそも、「契約」とは、「法的な効果が生じる約束」のことであり、当事者同士の意思表示が合致することで成立します。
契約という言葉を聞くと難しく聞こえますが、普段ショッピングをしたり、食事をしたり、私たちはあらゆる場面で契約を締結しています。
例えばショッピングでは、お客さんとお店との間で売買契約が結ばれ、それによって権利義務関係が発生しています。
では、「社会契約」とは、いったい誰とどのような契約を結ぶのでしょうか。
それは、市民が「市民の自然権」を守るために「国家」と契約を結びます。
私たちは、国家と契約を結ぶことで、自らが持つ自然権を保護してもらうことを考えたのです。
自然権とは?
「市民の自然権」を守るために国家と契約を結ぶと述べましたが、そもそも「自然権」とは何なのでしょうか。
自然権とは、「人は生まれながらにして自由かつ平等であり、生命や財産について有する天賦の権利」のことを指します。
こうした自然権思想は、アメリカ独立戦争にも大きな影響を与え、1776年には、自然権思想を体現したアメリカ独立宣言が公表されました。
われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、そのなかに生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずる
アメリカ独立宣言
では、このような自然権思想は、どこから来たのでしょうか。
それは、自然権思想の発祥がヨーロッパである点からイメージがつきます。
ヨーロッパは、キリスト教社会であり、すべての「人」は造物主である「神」によってつくられた存在だと考えます。
そして、「人」は「神」によって、自由・平等・生命・財産といった「自然権」が与えられるものだとされました。
こうした自然権思想の根拠は、多くの日本人にとって違和感があるかもしれませんが、近代立憲主義憲法や、その本質である「人権」という概念も、自然権思想が基になっているのです。
社会契約とは何か?
私たち一人ひとりは生まれながらにして自由・平等であり、生命や財産について「自然権」を有することをご説明しました。
しかしながら、私たち一人ひとりに「自然権」が与えられていたとしても、これを自分一人で維持することは困難でしょう。
なぜなら、世の中には、私たちの自然権を脅かす悪い人が必ず存在するからです。
現代の世の中でも、強盗や殺人がたびたびニュースに取り上げられたりします。
このような、私たちの自然権を脅かす「悪い人」から、自らの自然権を守り抜くためにはどうすればよいのでしょうか。
その一つの答えとして、「国家をつくり、国家に私たちの自然権を守ってもらう」という方法があります。
私たち一般市民と国家との間で「社会契約」を結び、市民の自然権を国家に守ってもらうことを考えました。
ホッブズ・ロック・ルソーの考え方
自然権を守るために、国家と社会契約を結ぶといいましたが、具体的に、どのような内容の社会契約を結ぶのでしょうか。
これについて説いたのが、「社会契約説」です。
ここでは、社会契約のあり方について説いた、有名な3人の学者を取り上げます。
それが、ホッブズ・ロック・ルソーの3人です。
ホッブズ・ロック・ルソーの3人は、市民と国家との間で、どのような社会契約が結ばれるのかを説き、社会に大きな影響を与えました。
以下の表を踏まえつつ、それぞれの思想を解説していきます。

ホッブズ
自然状態「万人の万人に対する闘争」→強力な国家の必要性→自然権を統治者に全面譲渡
=絶対王政を擁護
まず、ホッブズの考え方は、後述するロック・ルソーの考え方とまったく異なります。
それは、議論のスタート地点である「自然状態」の想定がそもそも異なっているためです。
自然状態とは、政府が存在しない状態のことを指します。
実際には自然状態はあり得ないわけですが、政府の存在しない世界で、神によって人がつくられた世界観をイメージしていただければよいと思います。
しかし、おそらく、その世界観は人によって異なるでしょう。
「自然状態」は、戦争状態?それとももっと平和な世界?
人によってそのイメージはバラバラだと思います。
実際、当時のヨーロッパでも、「自然状態」がどのような状態だったのか、その想定は異なっていました。
このうち、ホッブズは、自然状態を「万人の万人に対する闘争」状態だとしました。
すなわち、性悪説をとったのが、ホッブズの考え方です。
このような状況下では、まず、生命の安全を確保することが必要となります。
そして、生命の安全を確保するためには、強力な力を持つ国家が必要です。
したがって、ホッブズの考える社会契約の在り方は、人々が自然権を統治者に全面譲渡し、強力な国家を形成するべきだと考えます。
自然権を統治者に全面譲渡したわけですから、主権者は「国民」ではなく「国家」であり、国民は統治者に服従する必要があります。
ですから、ホッブズの考え方は、絶対王政を擁護し、国民の抵抗権を否定することにつながります。
ロック
自然状態「自由・平等・平和」→例外的に自然権侵害がある→自然権を統治者に一部譲渡
=間接民主制を主張
ホッブズは、自然状態を人々が争い合う状態であると仮定しましたが、それとは逆に、自然状態をより温和なものだと考えたのが、ロックの思想です。
まず、ロックは、自然状態を「自由・平等・平和」な状態だとしました。
ホッブズの想定した自然状態とは対照的に、性善説をとっていることがわかります。
このような状況下では、本来、人々を悪い存在だとは捉えません。
人々は、基本的には自由・平等・平和に暮らしており、例外的に窃盗などの自然権侵害がおこると考えるのです。
したがって、強力な国家は必要なく、社会契約の在り方は、人々が自然権の一部を代表者に委託して国家を形成すればよいと考えます。
自然権の一部のみを代表者に委託し、国家の最高権は国民にあると考えるため、主権者は「国民」です。
こうしたことから、ロックは間接民主制を主張したほか、抵抗権を容認しました。
そして、この考え方は、のちのアメリカ独立戦争に影響を及ぼすこととなります。
ルソー
自然状態「自由・平等・孤立」→構成員全体の利益を象徴する一般意思の存在を重視
=直接民主制を主張
一方、ルソーは自然状態を「自由・平等・孤立」状態だと仮定しました。
こちらもロックと同様、性善説をとっていることが分かります。
ただし、ルソーの考えた社会契約の在り方の特徴は、構成員全体の利益を象徴する一般意思の存在を重視したことが挙げられます。
一般意思とは、全員の利益のことです。
ルソーの考える理想の国家は、政治が一般意思に服従した人民主権の体制であって、直接民主制や抵抗権を容認するものとなります。
そして、こうしたルソーの思想は、のちのフランス革命に影響を及ぼすこととなります。
まとめ
◎「自然権」を自分一人で守ることは不可能→そこで、自然権を守るために「国家」と「社会契約」を結ぶ
◎社会契約説
・ホッブズ:自然状態「万人の万人に対する闘争」→強力な国家の必要性→自然権を統治者に全面譲渡=絶対王政を擁護
・ロック:自然状態「自由・平等・平和」→例外的に自然権侵害がある→自然権を統治者に一部譲渡
=間接民主制を主張
・ルソー:自然状態「自由・平等・孤立」→構成員全体の利益を象徴する一般意思の存在を重視
=直接民主制を主張