本記事では、社会契約説とは何なのか、また、社会契約説を提唱したホッブズ・ロック・ルソーの考え方をそれぞれわかりやすく解説していきます。
社会契約とは何か?
「自然権」を自分一人で守ることは不可能→そこで、自然権を守るために「国家」と「社会契約」を結ぶ
社会契約説といいますが、では、社会契約とはどのような契約で、誰と契約を結ぶのでしょうか。
これを理解するためには、「自然権思想」がその前提となりますので、先に説明します。
自然権思想とは何か?
自然権思想とは、人は生まれながらにして自由かつ平等であり、生命や財産についての「自然権」を有するとする思想のことです。
なぜ、このような考え方をとるのかといえば、この自然権思想の発祥がヨーロッパであることを考えてみてください。
ヨーロッパは、キリスト教社会ですから、すべての「人」は造物主である「神」によってつくられた存在だと考えます。
そして、「人」には「神」によって、自由・平等・生命・財産といった「自然権」が与えられているとします。
キリスト教の考え方が出発点になっていますから、日本人にとっては違和感があるかもしれませんが、日本国憲法の本質である「人権」という概念も、すべてこの「自然権思想」が基になっているのです。
社会契約とは何か?
私たち一人一人に「自然権」が与えられているとしても、これを一人で維持することは不可能です。
なぜなら、世の中には、私たちの自然権を脅かす悪い人が必ず存在するからです。
では、私たちに与えられた自然権を安定的に保護するためには、どうすればよいでしょうか。
その答えとして、「国家をつくり、国家に私たちの自然権を守ってもらう」ことが挙げられます。
そのために、私たちは、国家と「社会契約」を結ぶことを考えました。
(「自然権思想」・「社会契約」については、別記事でもっと丁寧に解説しています。)
ホッブズ・ロック・ルソーの考え方
自然権を守るために、国家と社会契約を結ぶといいましたが、具体的に、どのような内容の社会契約を結ぶのでしょうか。
これについて説いたのが、「社会契約説」です。
そして、社会契約説を扱った有名な学者が、ホッブズ・ロック・ルソーの3人です。
では、それぞれどのような考え方をとったのでしょうか。
以下の表を踏まえつつ、それぞれの考え方を解説していきます。

ホッブズ
ホッブズの考え方は、後述するロック・ルソーの考え方とまったく異なります。
それは、議論のスタート地点である「自然状態」の想定がそもそも異なっているためです。
(「自然状態」とは何か?についてはこちらの記事をご覧ください。)
ホッブズは、自然状態を「万人の万人に対する闘争」状態だとしました。
すなわち、性悪説をとったのが、ホッブズの考え方です。
このような状況下では、まず、生命の安全を確保することが必要となります。
そして、生命の安全を確保するためには、強力な力を持つ国家が必要です。
したがって、社会契約の在り方は、人々が自然権を統治者に全面譲渡し、強力な国家を形成するべきだと考えます。
自然権を統治者に全面譲渡したわけですから、主権者は「国民」ではなく「国家」であり、国民は統治者に服従する必要があります。
この考え方は、絶対王政を擁護し、抵抗権を否定することにつながります。
ロック
ロックは、自然状態を「自由・平等・平和」状態だとしました。
これは、ホッブズの想定した自然状態とは対照的に、性善説をとっていることがわかります。
このような状況下では、本来、人々を悪い存在だとは捉えません。
人々は、基本的には自由・平等・平和に暮らしており、例外的に窃盗などの自然権侵害がおこると考えるのです。
したがって、強力な国家は必要なく、社会契約の在り方は、人々が自然権の一部を代表者に委託して国家を形成すればよいと考えます。
国家の最高権は人民にあると考えるため、主権者は「国民」です。
以上のことから、ロックは間接民主制を主張したほか、抵抗権を容認しました。
この考え方は、のちのアメリカ独立戦争に影響を及ぼすこととなります。
ルソー
ルソーは自然状態を「自由・平等・孤立」状態だとしました。
ロックと同様、性善説をとっていることが分かります。
ルソーの考えた社会契約の在り方の特徴は、構成員全体の利益を象徴する一般意思の存在を重視したことが挙げられます。
一般意思とは、全員の利益のことです。
ルソーの考える理想の国家は、政治が一般意思に服従した人民主権の体制であり、直接民主制や抵抗権を容認することとなります。
そして、この考え方は、のちのフランス革命に影響を及ぼします。
まとめ
◎「自然権」を自分一人で守ることは不可能→そこで、自然権を守るために「国家」と「社会契約」を結ぶ
◎社会契約説
・ホッブズ:自然状態「万人の万人に対する闘争」→強力な国家の必要性→自然権を統治者に全面譲渡=絶対王政を擁護
・ロック:自然状態「自由・平等・平和」→例外的に自然権侵害がある→自然権を統治者に一部譲渡=間接民主制を主張
・ルソー:自然状態「自由・平等・孤立」→構成員全体の利益を象徴する一般意思の存在を重視=直接民主制を主張