2021年6月7日、東京都議会においては、東京オリンピック・パラリンピックの中止を求める陳情の採決が行われ、不採択となりました。
では、東京オリンピック・パラリンピックを中止することで、どのようなメリット・デメリットがあるといえるのでしょうか。
本記事では、この問題について、中立の立場から検討していきたいと思います。
東京オリンピックをめぐる世論
2021年6月現在、東京オリンピック・パラリンピックの開催をめぐっては、賛成と反対で世論が分断されています。
読売新聞が行った全国世論調査では、「開催すべき」が50%・「中止すべき」が48%との結果になっています。
では、東京オリンピック・パラリンピックを中止した場合、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
東京五輪中止のメリット
①新型コロナウイルスの感染拡大リスクを下げることができる
②開催分の費用を、国民への補償にあてられる
まず、東京五輪中止の最大のメリットとして、新型コロナウイルスの感染拡大リスクを下げることができる点が挙げられます。
大会組織委員会は、東京オリンピック・パラリンピックの開催にあたり、海外からの関係者の来日が最大9万人になる見通しを示しました。
国内での感染状況が高止まりとなっている中、海外からこれだけ多くの人が来日するとなれば、さらなる感染拡大につながりかねません。
そうなれば、医療現場のひっ迫や医療崩壊へつながる危険性もあります。
政府のいう「安心・安全の大会」は本当に実現できるのでしょうか。
ほかにも、東京五輪中止によって、開催に必要であった費用を、国民への補償にあてることができるとの指摘があります。
オリンピックの開催に必要な費用についても、当然、税金から賄われています。
この税金の使い道として、五輪に費やすくらいであれば、新型コロナウイルスによって生活に困窮した国民への支援に回すべきだとの見解が主張されています。
東京五輪中止のデメリット
①開催すれば経済へのダメージは少なく済むが、中止すれば経済的な損失が大きい
②競技の機会がなくなってしまう
③中止になると、IOCへ多額の違約金の支払いが求められる可能性がある
東京五輪を中止した際の、最大のデメリットは経済的な損失です。
そもそも、海外からの観客を受け入れないのであれば、中止でも開催でも、損失にそこまで違いはないと思われるかもしれません。
しかし、海外からの観客を受け入れなかったとしても、それが直ちに中止をすべき根拠にはなりません。
関西大学の宮本勝浩名誉教授の試算によれば、完全に中止となった場合の経済的な損失は約4兆5,151億円、無観客の場合は約2兆4,000億円、簡素化した場合は約1兆3,898億円で済むということです。
完全に中止とせず、簡素化してでも開催さえすれば、経済的なダメージは少なくなります。
特に、飲食業界・旅行業界などは、既に経済的に大きなダメージを受けていますから、五輪が完全に中止となれば、その分の人の流れはなくなり、立て直しが効かなくなる企業も続出しそうです。
また、選手側の立場から考えてみると、中止となれば、競技の機会がなくなってしまうことになります。
選手も、4年に1度の五輪に照準を合わせて、準備を進めています。
ただでさえ、1年の延期によってスケジュールが崩されたわけですから、中止となれば、選手のモチベーションの維持はできなくなってしまうかもしれません。
ほかにも、中止になった場合、IOCへ多額の違約金の支払いが求められる可能性を指摘する人もいます。
オリンピック憲章によれば、開催が取り消しになった場合、それによって生ずる損害に対して、IOCの損害賠償請求権が認められる旨の規定があります。
ただ、これについては、賠償を求められる可能性は極めて低いと考えられます。
というのも、夏季オリンピックは、これまでも1916年ベルリン大会・1940年東京大会・1944年ロンドン大会が中止となっています。
そして、これらの中止は、いずれも「戦争」を理由としたものです。
しかし、大会が中止となった後、違約金が求められたことは一度もありません。
今回の東京大会の場合、世界規模の感染症を理由とした中止になりますから、違約金の支払いが求められることは考えにくいといえます。