【図解あり】薬事法距離制限事件をわかりやすく解説

憲法判例
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本記事では、薬事法距離制限事件(最大判昭和50年4月30日)をわかりやすく解説します。

事案の概要

薬局を営業するにあたっては、「薬事法」という法律により、各都道府県の知事の許可が必要であると定められています。

そして、その許可条件として、距離制限が設けられていました。

つまり、ある地域に固まって薬局が出店しないように、開業に際しては制限が設けられていました。

このような規定は、当然、新しく薬局の営業を始めたい人にとっては制約となり得るものです。

本件において、Aは薬局を開設しようとしたものの、距離制限に抵触することなどを理由に、県からの不許可処分を受けました。

そこで、Aは、本件不許可処分は、憲法第22条第1項に違反しているため、違法であるとして争いました。

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

日本国憲法第22条第1項
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裁判所の判断

これについて、最高裁判所は、まず、いわゆる「二重の基準論」の適用を明確にします。

「もつとも、職業は、前述のように、本質的に社会的な、しかも主として経済的な活動であつて、その性質上、社会的相互関連性が大きいものであるから、職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請がつよく、憲法22条1項が「公共の福祉に反しない限り」という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこの点を強調する趣旨に出たものと考えられる。」

つまり、精神的自由とは異なり、職業の自由については、その制約が憲法上予定されているといいます。

そのうえで、小売市場距離制限事件で示した「規制目的二分論」を展開します。

規制目的二分論とは、職業の自由の制約についての合憲性を判断する基準として、その規制の「目的」に応じて、審査基準を使い分けるというものです。

これによれば、職業の自由への規制は「積極目的規制」と「消極目的規制」に分類でき、どちらにあたるかで、審査の厳格度合いが異なります。

つまり、職業の自由の制約が積極目的なのか、消極目的なのかで、その制約が合憲となるハードルが変わってきます。

まず、積極目的規制とは、社会経済政策のための規制を指し、小売市場における距離制限がこれにあたるとされました。

そして、小売市場距離制限事件において最高裁は、積極目的規制については明白性の基準という、極めて緩やかな基準を用いて合憲性を審査することを示しました。

(※小売市場距離制限事件については、別記事で詳しく解説しています。)

一方、消極目的規制とは市民の生命・安全・健康を守るための規制です。

最高裁は、薬局の距離制限については、市民の生命・安全・健康を守るための消極目的規制にあたるとしました。

では、小売市場距離制限事件最高裁判決においては、積極目的規制については明白性の基準を用いるべきとの見解を示しましたが、消極目的規制についてはどのような審査基準を用いるべきなのでしょうか。

これについて、本判決では、消極目的規制については中間審査基準を用いるべきだと述べています。

「以下において適正配置上の観点から不許可の道を開くこととした趣旨、目的を明らかにし、このような許可条件の設定とその目的との関連性、及びこのような目的を達成する手段としての必要性と合理性を検討し、この点に関する立法府の判断がその合理的裁量の範囲を超えないかどうかを判断することとする。」

すなわち、消極目的規制と認定された場合、立法目的において「必要性と合理性」を審査し、立法目的において「より制限的な手段がないか」を審査するとします。

(※規制目的二分論については、別記事で詳しく解説しています。)

そして、薬局の距離制限を消極目的規制と認定したうえで、「不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたもの」ということはできず、憲法第22条第1項に違反するとの判決を下しました。

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