【図解あり】三菱樹脂事件をわかりやすく解説(私人間効力)

憲法判例
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本記事では、三菱樹脂事件の概要と、最高裁の判決(最大判昭和48年12月12日)について解説します。

事案の概要

三菱樹脂株式会社の採用試験においては、会社が応募者に対して学生運動に参加したか否かを尋ねていましたが、原告Aは参加していないと述べていました。

その後、原告Aは、会社が「3ヶ月の試用期間の後に雇用契約を解除することができる権利を留保する」との条件の下、三菱樹脂株式会社に採用されることとなりました。

ところが、その後の調査で、原告Aが学生運動に参加していたことが発覚します。

そのため、三菱樹脂株式会社は、試用期間満了の際に原告Aの本採用を拒否しました。

そこで、これを不当な採用拒否だと考えた原告Aは、雇用契約上の地位確認請求を行いました。

原告Aは、採用試験において応募者の思想を調査し、その思想を理由に本採用を拒否することは、憲法に保障された「思想・信条の自由」を害し、思想による差別に当たると主張します。

しかしながら、憲法の人権規定というのは、本来「国家」対「私人」の適用を想定しています。

ですから、憲法上規定されている「思想・信条の自由」が、「国家」対「私人」ではなく「私人」対「私人」の間において適用できるのかが注目された判例です。

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裁判所の判断

まず、憲法の人権規定の私人間効力について、学説は大きく3つに分かれています。

それが、「無効力説」「直接適用説」「間接適用説」です。

無効力説とは、憲法は私人間効力を一切有しないとする考え方です。

無効力説のイメージ

直接適用説とは、無効力説とは逆に、憲法を私人間にもそのまま適用可能だとする考え方です。

直接適用説のイメージ

間接適用説とは、憲法を、私法の一般条項を媒介にし、憲法の人権規定を間接的に適用できるとする考え方です。

間接適用説のイメージ

間接適用説を簡単に説明すると、民法第1条・第90条・第709条などに、憲法の趣旨を読み込んだうえで民法を解釈する方法です。

このように、本来、「国家」対「私人」の間に適用することが想定されている憲法の人権規定に、私人間効力を認めることができるか否かについて、学説は対立しています。

(※憲法の人権規定の私人間効力の学説については、別記事で詳しく解説しています。)

では、私人間効力について、裁判所はどのような判断を下したのでしょうか。

これについて、最高裁(最大判昭和48・12・12)は、憲法は「私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」として、まず直接適用説を否定します。

「憲法の右各規定は、同法第3章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。」

以上のように述べたうえで、立法措置での是正に加え、間接適用説を一部採用する立場をとりました。

「私的支配関係においては、個人の基本的自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によってその是正を図ることが可能であるし、また、場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な適用によって」解決できる

憲法の人権規定の私人間効力について、最高裁は「間接適用説」による解決を示し、民法などの私法規定の解釈によるべきであるとしました。

なお、労働法の争点において、最高裁は以下のような見解を示します。

①特定の思想を理由とした採用拒否は違法ではない
②採用試験時に、思想について尋ねることは違法ではない

そして、「留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。」として、高裁に差し戻しとなりました。

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