【図解あり】小売市場距離制限事件をわかりやすく解説

憲法判例
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本記事では、小売市場距離制限事件(最大判昭和47・1・22)をわかりやすく解説します。

事案の概要

小売市場については、過当競争を防止するために「小売商業調整特別措置法」という法律が存在します。

この法律によれば、小売市場を営業するためには許可が必要であり、その許可条件として距離制限が規定されています。

ところが、法人Xの代表者であるAは、許可を得ずに制限区域内に小売市場を建設し、店舗の貸し付けを行いました。

そのため、この行為が、同法に違反するとして、X及びAは起訴されました。

そこで、XとAは、許可制・距離制限を設けることは、憲法第22条第1項に違反するとして争いました。

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

日本国憲法第22条第1項
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裁判所の判断

これについて、最高裁判所は、まず、いわゆる「二重の基準論」を展開します。

「憲法は、国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定しているものということができ、個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関する場合と異なつて、右社会経済政策の実施の一手段として、これに一定の合理的規制措置を講ずることは、もともと、憲法が予定し、かつ、許容するところと解するのが相当であり」

すなわち、精神的自由とは異なって、経済的自由に関する規制は、憲法自身が予定しているものであると述べます。

そのうえで、最高裁は、「規制目的二分論」を展開します。

規制目的二分論とは、職業の自由の制約についての合憲性を判断する基準として、その規制の「目的」に応じて、審査基準を使い分けるというものです。

最高裁は、消極目的規制とは別に積極目的規制が存在すると述べ、積極目的規制については明白性の基準を用いることを示しました。

そもそも、消極目的規制とは市民の生命・安全・健康を守るための規制であり、これについては中間審査基準を用いるべきであるとされます。

このような、裁判所が消極目的規制であると認定した事例としては、薬事法距離制限事件が有名です。

(※薬事法距離制限事件については、別記事で詳しく解説しています。)

一方、本判決では、積極目的規制という社会経済政策のための規制が存在するとし、これについては明白性の基準を用いるべきとの見解を示しました。

明白性の基準とは、目的・手段のいずれかが著しく不合理である場合に限って違憲となるものであり、非常に緩やかな審査基準です。

【積極目的規制について最高裁は明白性の基準を採用!】
「個人の経済活動に対する法的規制措置については、立法府の政策的技術的な裁量に委ねるほかはなく、裁判所は、立法府の右裁量的判断を尊重するのを建前とし、ただ、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲として、その効力を否定することができるものと解するのが相当である。」

そのため、裁判所が規制目的二分論を展開し、当該規制が積極目的規制であると認定されれば、ほとんどの場合「合憲」の結論が導かれることになります。

(※規制目的二分論については、別記事で詳しく解説しています。)

そして、本件にあてはめると、当該規制は積極目的規制であるため明白性の基準が採用され、著しく不合理とはいえないため、許可制・距離制限は合憲であるとされました。

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