【図解あり】月刊ペン事件をわかりやすく解説

憲法判例
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本記事では、月刊ペン事件(最判昭和56年4月16日)について解説します。

事案の概要

刑法第230条には、名誉毀損罪についての規定があります。

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

刑法第230条第1項

名誉棄損表現については、民法の不法行為責任(民法第710条・第723条)にとどまらず、刑事責任も問うことができるほど、日本においては名誉の手厚い保護がなされています。

昭和51年(1976年)、雑誌「月刊ペン」において、創価学会・池田大作会長の女性関係について書いた記事が掲載されました。

しかし、これについて、池田会長と女性会員2人の名誉が毀損されたとして、編集長Aは刑事告訴、逮捕・起訴されました。

この事件は「名誉の保護」と「表現の自由」が対立した事例として、有名な判例です。

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裁判所の判断

刑法第230条には名誉毀損罪が規定されていますが、これは戦前に規定されたものです。

ところが、戦後、表現の自由が認められるようになると、「名誉の保護」と「表現の自由」が対立する事態が生じるようになります。

そこで、名誉の保護と表現の自由を調整するために規定されたのが、刑法第230条の2です。

1:前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2:前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3:前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

刑法第230条の2

つまり、刑法第230条にいう名誉毀損がなされた場合であっても、新しく制定された刑法第230条の2に該当すれば免責が認められます。

では、どのような場合に免責が認められるのか、刑法第230条の2を簡単にまとめると、以下のようになります。

①:公共の利害に関する事実
②:公益を図る目的
③:①・②の場合に、真実性の証明があるもの

これらを満たした場合に、「表現の自由」の価値が優先され、名誉毀損罪に該当しなくなります。

雑誌編集長のAは、刑法第230条の2に該当し、名誉毀損罪は免責されると主張しました。

まず、ここで問題となるのが、①の「公共の利害に関する事実」にあたるか否かです。

すなわち、公務員や公職者のような「公人」ではなく、「私人」である創価学会の会長に関する記事が、「公共の利害に関する事実」にあたるのか否かが問題となります。

これについて、最高裁は、私人である創価学会の会長についても、公共の利害に関する事実にあたる場合があることを示しました。

私人の私生活上の行状であつても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによつては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法二三〇条の二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合がある。」

つまり、私人であったとしても、社会的な影響力が強い人については、公人と同じように「公共の利害に関する事実」にあたる場合があるということです。

そして、東京地裁に差し戻しとなった後、差し戻し審においては、記事の内容について③「真実性の証明」がなされたとはいえないとして、Aに有罪判決が下されています。

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