本記事では、「LRAの基準」について、その意義や適用例、問題点などを検討します。
LRAの基準とは?
当該法令について、立法目的が正当であっても、その目的を達成するためにより制限的でない他の選びうる手段を採用することができたか否かを検討し、合憲か違憲か判断する手法(基準)のこと。
まず、「LRAの基準」という言葉についてですが、「LRA」とは何なのでしょうか。
LRAとは、Less Restrictive Alternativesの略です。
これを日本語にすると、「より制限的でない他の選びうる手段」という訳になります。
では、LRAの基準とは、どのような基準なのでしょうか。
これは、立法目的が正当であっても、その目的を達成するためにより制限的でない他の選びうる手段を採用することができたか否かを検討し、合憲か違憲かを判断する手法(基準)のことです。
簡単に言うならば、もっと人権にとってやさしい手段で同じ目的が達成できるなら、実際に取られている手段は違憲となる、ということです。

上の図をご覧ください。
ある目的を達成するための「手段A」と「手段B」があったとします。
このうち、手段Aは人権にとって厳しい制約となる一方、手段Bは手段Aに比べて人権にとってやさしい制約であるとします。
しかしながら、実際には「手段A」がとられ、これについての違憲性が争われています。
これについて、LRAの基準を用いた場合、「同じ目的を達成できる、より人権にとってやさしい手段B」があるにもかかわらず「手段A」を用いたのだから、違憲だ!ということになります。
このように、同様の目的を達成するために、より制限的でない手段があるかな?ということを検討し、違憲性を判断するのが「LRAの基準」です。
LRAの基準は、厳格な審査基準(もしくは中間審査基準)のうちの一つの手法であるとされます。
LRAの基準を採用した判例
LRAの基準を採用した判例として、薬事法距離制限規定事件最高裁判決・猿払事件第一審判決があります。
薬事法距離制限規定事件最高裁判決
まず、LRAの基準を、最高裁判所が用いた例として、薬事法距離制限規定事件最高裁判決(最大判昭和50・4・30)が挙げられます。
これは、薬局の新規開業にあたって距離制限が設けられていたことについて、職業の自由を不当に制約するのではないかということが問題となった事件です。
これについて、最高裁は、許可制が「消極的、警察的措置」である場合には、「許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要する」としました。
つまり、「消極的・警察的目的規制」については、職業にとってよりゆるやかな制限ではその目的が達成できない場合に限って、制約が合憲となるとしました。
ですから、「同じ目的を達成できるより制限的でない手段」の有無を判断基準としていることから、この判決はLRAの基準を用いたものだといえます。
猿払事件第一審判決
また、下級審ではあるものの、LRAの基準を採用したものとして、猿払事件第一審判決(旭川地裁昭和43・3・25)が挙げられます。
猿払事件では、公務員の政治的活動を規制している国家公務員法と、それを受けてつくられた人事院規則14-7の違憲性が争われました。
これについて、旭川地裁は、「法の定めている制裁方法よりも、より狭い範囲の制裁方法があり、これによってもひとしく法目的を達成することができる場合には、法の定めている広い制裁方法は法目的達成の必要最小限度を超えたものとして、違憲となる場合がある」としました。
すなわち、「同じ目的を達成できるより制約の範囲が狭い・少ない手段があるならば、実際にとられている手段は違憲だ」ということを言っているわけですから、LRAの基準を用いたものだといえます。
LRAの基準の問題点
LRAの基準の問題点として、「他の選びうる手段」について裁判所が判断をするのは、立法府の権限を侵害しているのではないかということが挙げられます。
すなわち、「法律をつくる際に、もっと人権にとってやさしい手段があっただろう!」ということを裁判所が言うことになるわけですから、本来国会が考えるべき「どういう手段が適切なのか」という仕事を侵害することになってしまうという問題です。
ただ、この問題点に関しては、裁判所はあくまで他の手段の可能性を言及しているだけであって、立法府の権限を侵害するほどのものではないとの反論が可能でしょう。
まとめ
◎LRAの基準とは
→当該法令について、立法目的が正当であっても、その目的を達成するためにより制限的でない他の選びうる手段を採用することができたか否かを判断し、合憲か違憲か判断する手法(基準)のこと。
◎LRAの基準を採用した判例
→薬事法距離制限規定事件最高裁判決・猿払事件第一審判決
◎LRAの基準の問題点
→「他の選びうる手段」について裁判所が判断をするのは、立法府の権限を侵害しているのではないか。