憲法判断回避の準則とは?意義・判例(恵庭事件)をわかりやすく解説

憲法訴訟
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広い意味での「憲法判断の回避」とは、「憲法判断が可能であるにもかかわらず、何らかの政策的考慮によってそれを行わないこと」を指します。

この「広義の憲法判断の回避」には、第一に、統治行為論が含まれます。

(※統治行為論については、別記事で解説しています。)

また、第二に、(狭義の)憲法判断の回避が挙げられます。

本記事では、(狭義の)憲法判断の回避にフォーカスし、判例(恵庭事件)とともに検討していきます。

憲法判断の回避とは?

憲法訴訟は、当該事件の解決が目的であるため、憲法判断をせずに解決が可能であれば、不必要に憲法判断をしない。

そもそも、「憲法判断の回避」という考え方が登場する理由は、日本において付随的違憲審査制が採用されていることが挙げられます。

すなわち、付随的違憲審査制を採用している以上は、訴訟を提起するために、法律上の争訟が適切に裁判所に提起されていることが必要になります。

そして、裁判所は、その訴訟の解決に必要な限りにおいて憲法判断を行います。

これは、裏を返せば、憲法判断に立ち入らずに当該事件が解決できるのであれば、必要もないのに憲法判断をすべきではないということになります。

付随的違憲審査制を採用している限り、裁判所の役割はあくまでも「当該事件の解決」に他ならないからです。

ですから、憲法訴訟は、当該事件の解決が目的であるため、憲法判断をせずに解決が可能であれば、不必要に憲法判断をしないという「憲法判断の回避」の考え方が導かれます。

この考え方はアメリカ連邦最高裁のブランダイス・ルールによって示されており、日本における判例と照らし合わせながらみていきたいと思います。

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ブランダイス・ルール第7準則

裁判所は、法律の合憲性について重大な疑いが提起されたとしても、その問題を回避できるような法律解釈が可能であるか否かをまず確認すべきである。

まず、ブランダイス・ルール第7準則においては、裁判所は、法律の合憲性について重大な疑いが提起されたとしても、その問題を回避できるような法律解釈が可能であるか否かをまず確認すべきだと述べています。

これを、噛み砕いて読むと、以下の2通りの要素を含んでいることが分かります。

【ブランダイス・ルール第7準則】
①ある法律を解釈する際、合憲限定解釈が可能であればそれに従うべきである。
②憲法問題を含む論点について判断する際、問題となっている法律に複数の解釈が可能である場合には、合憲となる解釈を採用すべきである。

ブランダイス・ルール第7準則は、以上の2点の要素を含むと解することができます。

まず、①は、ある法律を解釈する際、合憲限定解釈が可能であればそれに従うべきであるという準則です。

すなわち、ある法律の合憲性が問題となっている際に、素直に条文を読むと違憲となり得るケースを想定します。

この場合、合憲限定解釈が可能であるならば、それに従い、違憲の疑いを回避すべきだとします。

この①を実際に行ったのが恵庭事件判決(札幌地判1967・3・29)です。

また、②は、憲法問題を含む論点について判断する際、問題となっている法律に複数の解釈が可能である場合には、合憲となる解釈を採用すべきであるという準則です。

つまり、ある法律の合憲性が問題となっている際に、「合憲の解釈」と「違憲の解釈」が存在したとします。

この場合、その法律について、「合憲の解釈」を採用すべきだとするのが②です。

恵庭事件

ブランダイス・ルール第7準則のうち、①の要素である「ある法律を解釈する際、合憲限定解釈が可能であればそれに従うべき」を採用した日本の判例として、恵庭事件判決(札幌地判1967・3・29)が挙げられます。

恵庭事件の概要は以下の通りです。

【恵庭事件の概要】
北海道の恵庭町において、酪農を営む2人の兄弟は、近隣の自衛隊の演習場からの騒音によって牛乳の生産量が落ちたため、境界付近での射撃訓練については事前に連絡することを自衛隊と確約していた。しかし、ある時、自衛隊にその確約を破られたことから、酪農を営む2人の兄弟は、自衛隊の敷地に入り通信線を切断した。
この通信線を切断した行為について、検察は自衛隊法第121条に基づいて起訴した。これに対して、酪農を営む2人の兄弟は、そもそも自衛隊法は憲法第9条に反するため違憲無効であり、無罪であると主張した。

これについて、札幌地裁は、自衛隊法第121条の限定解釈を行いました。

自衛隊法第121条には、「自衛隊の所有し、又は使用する武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物を損壊し、又は傷害した者は、五年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。」と規定されています。

しかし、裁判所は、通信線は「武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物」には該当しないとの見解を示しました。

つまり、「その他の防衛の用に供するもの」とは、例示されている「武器・弾薬・航空機」と同等であるほどの重要性があるものでなければならないと、限定解釈をしました。

そして、そのうえで、「自衛隊法121条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上、もはや、弁護人ら指摘の憲法問題に関し、なんらの判断をおこなう必要がないのみならず、これをおこなうべきでもないのである。」と述べ、構成要件に該当しない以上、自衛隊法が合憲か違憲かの判断をすべきではないとしたのです。

(恵庭事件の概要と裁判所の判断については、別記事で詳しく解説しています。)

このように、恵庭事件判決は、①の「ある法律を解釈する際、合憲限定解釈が可能であればそれに従うべき」だということを示した典型例であるといえます。

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ブランダイス・ルール第4準則

裁判所は、憲法問題が記録によって適切に提出されているとしても、その事件を処理することができる他の理由がある場合には憲法問題について判断しない。

続いて、ブランダイス・ルール第4準則を検討します。

第4準則では、「裁判所は、憲法問題が記録によって適切に提出されているとしても、その事件を処理することができる他の理由がある場合には憲法問題について判断しない。」と述べています。

これを、噛み砕くと、以下のようなルールだということが分かります。

【ブランダイス・ルール第4準則】
=事件を解決することができる論点が複数ある際には、なるべく憲法問題を含まない論点で解決すべき

すなわち、事件において論点は複数登場するわけですが、憲法問題を含まずに当該事件が解決できるならば、触れるべきではないということを示しています。

このように、第7準則や第4準則によって、憲法判断の回避の手法が示されているのです。

まとめ

憲法判断の回避:憲法訴訟は、当該事件の解決が目的であるため、憲法判断をせずに解決が可能であれば、不必要に憲法判断をしない。

◎【ブランダイス・ルール第7準則】
①ある法律を解釈する際、合憲限定解釈が可能であればそれに従うべきである。(恵庭事件判決)
②憲法問題を含む論点について判断する際、問題となっている法律に複数の解釈が可能である場合には、合憲となる解釈を採用すべきである。

◎【ブランダイス・ルール第4準則】
=事件を解決することができる論点が複数ある際には、なるべく憲法問題を含まない論点で解決すべき

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