直接適用可能な条文は?私人間効力が想定されている憲法の条文

憲法
スポンサーリンク

憲法は、本来、「国家」対「私人」の間の関係を規律したものです。

しかし、時代の変化により、「私人」対「私人」との関係でも憲法の適用が求められるようになり(詳しくは、「なぜ憲法の人権規定の「私人間効力」が問題となるのか」をご覧ください。)、私人間における効力が議論されてきました。

そのなかで、私人間効力におけるさまざまな学説が形成され、判例の立場も明らかとなりました

しかし、このような議論が展開されたのも、憲法が「国家」対「私人」を想定したものであるからです。

「国家」対「私人」の関係で適用されるはずの憲法を、何とかして、「私人」対「私人」に適用できないか、これが問われてきたわけです。


ところが、今回ご紹介する内容は、そうではありません。

憲法に私人間効力があるか否かの議論にかかわらず、初めから「私人」対「私人」を想定した条文が存在します

本記事では、ここに焦点を当て、解説していきたいと思います。

私人間の「直接適用」を初めから想定している憲法上の条文

・①憲法第15条第4項(投票の秘密)
・②憲法第18条(奴隷的拘束・苦役からの自由)
・③憲法第26項第2項(教育を受けさせる義務)
・④憲法第27条第3項(児童酷使の禁止)
・⑤憲法第28条(労働基本権)

「私人」対「私人」の関係において、直接適用があるとされる条文を一つ一つ見ていきます。

①憲法第15条第4項(投票の秘密)

まず、第一に、「投票の秘密」を規定した憲法第15条第4項が挙げられます。

すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

憲法第15条第4項

本条文は、いわゆる「普通選挙」や「秘密選挙」の原則を規定したものです。

「選挙人」とは、選挙権を持つ人のことで、その選択に対し、「公的」にも「私的」にも責任は問われないとされています。

したがって、「国家」対「私人」のみならず、「私人」対「私人」の関係での適用を、あらかじめ想定した条文であるといえます。

②憲法第18条(奴隷的拘束・苦役からの自由)

憲法第18条の「奴隷的拘束・苦役からの自由」も、私人間の適用を想定したものであるといえます。

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

憲法第18条

一見、これだけを見ると、「私人」対「私人」の関係でも適用されるかはわかりません。

しかし、「奴隷的拘束・苦役からの自由」という条文の趣旨・目的から考えたときに、その奴隷的拘束や苦役をさせられる者にとっては、その主体が「国家」であろうが「私人」であろうが大差はありません。

さらに、「奴隷的拘束・苦役からの自由」は、もはや「私的自治の原則」を逸脱したものであって、私人間においても認められるものではありません。

したがって、「奴隷的拘束・苦役からの自由」という条文の性質を鑑みれば、本条文は私人間にも当然に適用されることが、望ましいのです。

③憲法第26項第2項(教育を受けさせる義務)

憲法第26条第2項の「教育を受けさせる義務」についても、私人間に当然に適用されると考えます。

すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。

憲法第26条第2項

本規定については、条文上に明確に規定されていることがわかると思います。

単純に言えば、「親」は「子」に対し、教育を受けさせる義務があるということです。

「親」と「子」の関係において、「親」に義務を課していることから、初めから「私人」対「私人」を想定したものだとわかります。

④憲法第27条第3項(児童酷使の禁止)

憲法第27条第3項の「児童酷使の禁止」も、私人間適用が初めから想定された条文になります。

児童は、これを酷使してはならない。

憲法第27条第3項

憲法第27条は、国民の勤労の権利と義務を定めた条文です。

なかでも、第3項では、児童労働における酷使を禁止しています。

これは、歴史的に、児童が劣悪な労働環境に置かれてきたことをもとに規定された条文となっています。

ですから、本条文も、②「奴隷的拘束・苦役からの自由」と同様に、その条文の性質を鑑みれば、私人間にも当然に適用があると考えるべきでしょう。

⑤憲法第28条(労働基本権)

憲法第28条に規定された「労働基本権」についても、私人間の直接適用を想定しています。

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

憲法第28条

本条文は、勤労者の「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の根拠となっています。

そうであるならば、「使用者」と「労働者(勤労者)」との間で適用されなければおかしいはずです。

したがって、「私人」対「私人」の適用を前提とした条文であるといえます。

まとめ

私人間の「直接適用」が初めから想定されている憲法の条文
・①憲法第15条第4項(投票の秘密
・②憲法第18条(奴隷的拘束・苦役からの自由
・③憲法第26項第2項(教育を受けさせる義務
・④憲法第27条第3項(児童酷使の禁止
・⑤憲法第28条(労働基本権

タイトルとURLをコピーしました