【図解あり】「公共の福祉」における学説をわかりやすく解説

憲法
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今日の日本おいては、私たち一人ひとりに基本的人権が保障されています。

その基本的人権の重要性に鑑みて、憲法第97条では、以下のように規定されています。

この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

憲法第97条

では、人権は、いついかなる場合であっても、無制限に保障されるものなのでしょうか?

そこで、本記事では、人権の限界その根拠を検討していきたいと思います。

人権は、無制限に保障される?

人権は、いついかなる場合においても無制限に保障されるものではない

先ほどの憲法第97条を見ると、人権は絶対的であり、無制限に保障されるかのようにも読めます。

しかし、実際は、そのようなことはあり得ません。

なぜなら、私たちの人権が無制限であった場合、他者の人権や社会の利益と「衝突・干渉」してしまうからです。

一つ、具体例を挙げて考えてみましょう。

例えば、慢性的な渋滞で、経済的な損失が発生している「A市」があったとします。

そこで、A市は、「Bさん」の所有する土地に、渋滞緩和のために道路をつくる計画を立てたとします。

この場合、A市の社会的利益を認め、Bさんの土地に道路をつくるとなれば、Bさんの人権は損なわれることとなります。

一方、Bさんの人権を認め、道路をつくらなかった場合、A市の社会的利益は損なわれることとなります。

こうして、ある人の人権が、何らかの形で他者・社会の利益と衝突することがあります。

そのため、人は、社会との関係を無視することはできず、いくら人権が大切だとはいえ、一定の制約を課す必要が出てくる場合があるのです

どのような場合に、人権制約が正当化される?

「公共の福祉」の理解による

では、どのような場合に、人権を制約することが、憲法上正当化されるのでしょうか?

その「基本的人権の限界論」として論じられたのが、「公共の福祉」の理解によるものです。

では、「公共の福祉」という言葉は、憲法のどこに登場するのでしょうか。

これについては、以下の4つの条文が挙げられます。

・憲法第12条(総論的)
・憲法第13条(総論的)
・憲法第22条第1項(個別的)
・憲法第29条第2項(個別的)

そして、これらの条文にいう「公共の福祉」を、どのように理解するかによって、人権制約の根拠がかわってきます

そこで、この理解について、学説の変遷を追って検討していきたいと思います。

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「公共の福祉」の理解についての学説

①一元的外在制約説(抽象的「公共の福祉」論)
②内在・外在二元制約説(12条・13条訓示規定説)
③一元的内在制約説(「公共の福祉」内在制約説)

(前提)内在制約・外在制約とは?

まず、この議論を検討する前に、「内在制約」と「外在制約」を理解する必要があります。

「内在制約」と「外在制約」とは、イメージでいうと以下のような感じです。

内在制約:それ自身がもともと持っている限界
 (イメージ→人が130km/hで走ることそもそも不可能=内在制約)
外在制約:外側からくわえられる制約
 (イメージ→車が130km/hで走ることできるけれど法によって不可能=外在制約)

つまり、内在制約とは、「人権それ自体が持っている限界」です。

他者の人権と衝突した場合、それは人権自身が持っている内在的な制約となります。

一方、外在制約とは、外側からくわえられる制約、すなわち、国や地方公共団体などによる制約を指します。

では、公共の福祉の学説の変遷を見ていきましょう。

「公共の福祉」の学説の変遷

①一元的外在制約説(抽象的「公共の福祉」論)

人権はすべて「公共の福祉」を根拠に制約される。

<根拠>
・憲法第12条・第13条の総論的条文
・憲法第22条第1項・第29条第2項には特別な意味なし

現行憲法施行後、まず唱えられたのは、この一元的外在制約説でした。

この説では、憲法第12条・第13条が総論的な条文であることを根拠に、「公共の福祉」によってすべての人権が制約されるものだと考えます

そして、憲法第22条第1項・第29条第2項には、特別な法的意味はないと考えます。

しかし、この説では、「公共の福祉」を抽象的に理解していることから、法律による人権侵害が、簡単に認められてしまう恐れがあります。そうなれば、戦前、「法律の留保」という言葉を根拠に、どのような人権制約であっても正当化されたのと同様な結果をもたらす可能性があります。

②内在・外在二元制約説(12条・13条訓示規定説)

・「公共の福祉」を根拠に制約が認められる人権は、憲法第22条第1項・第29条第2項にいう経済的自由権と社会権に限る。
・憲法第12条・第13条は、訓示的な規定にすぎない。

<根拠>
・人は、社会との関係を無視することができないため、人権は内在的制約を受けざるを得ない(このことを憲法第12条・第13条に規定)が、外在的制約は認められない。外在的制約が認められるのは、憲法第22条第1項・憲法第29条第2項のみ。

①の説では、人権規定が無意味化してしまうという大きな問題点がありました。

そこで、次に唱えられたのが、②内在・外在二元制約説です。

この説では、「公共の福祉」を根拠に制約が認められる人権は、憲法第22条第1項・第29条第2項に限られるとします。

すなわち、経済的自由と社会権についてのみ、「公共の福祉」を根拠に人権制約が認められると考えます

そして、憲法第12条・第13条は、人権が、社会との関係により内在的制約に服さざるを得ないものであることを記した「訓示規定」であると考えます。

よって、憲法第12・第13条を根拠に、公益目的で人権制約を行うことは認められず、外在的制約が認められるのは、憲法第22条第1項・第29条第2項だけだとします。

しかし、この説では、「経済的自由・社会権」と「その他の人権」を完全に切り離している点で問題があります。なぜなら、「自由権」的な側面を持つ「社会権」など、完全に分けることができないものも存在するからです。
また、憲法第13条を「訓示規定」と考えてしまうと、法規範性を否定することとなってしまいます。

③一元的内在制約説(「公共の福祉」内在制約説)

・①②にいう「公共の福祉」=外在的制約
・③にいう「公共の福祉」=人権相互の衝突・矛盾を調整するための実質的公平の原理

・自由権を公平に保障するための制約の根拠=「自由国家的公共の福祉」
 ←必要最小限度の規制
・社会権保障のための自由権制約の根拠=「社会国家的公共の福祉」
 ←必要な限度の規制

まず、この説では、「公共の福祉」の捉え方がかわります。

①②説では、「公共の福祉」を、「外在的制約」であると捉え、人権制約の根拠となっていました。

しかし、③説では「公共の福祉」を、「人権相互の衝突・矛盾を調整するための実質的公平の原理」であると捉えます

(ここでは、①②説とは違い、第12・13・22・29条などの条文の解釈はいったん置いておいて、現代立憲主義の観点から考えます。)

そして、自由権を公平に保障するための「自由国家的公共の福祉」を根拠とする制約は、必要最小限度の規制でなければいけません

一方、社会権を保障するための「社会国家的公共の福祉」を根拠とする制約は、必要な限度の規制であれば許されます

つまり、「自由国家的公共の福祉」を根拠とする制約が許される範囲は狭いが、「社会国家的公共の福祉」を根拠とする制約が許される範囲は広いということです。

「必要最小限の規制」「必要な限度の規制」としていますが、その抽象性が問題となります。

まとめ

人権は、いついかなる場合においても無制限に保障されるものではない

人権制約の正当化の根拠:「公共の福祉」の理解による

・ただし、その理解は、学説によって異なる。
 ①一元的外在制約説(抽象的「公共の福祉」論)
 ②内在・外在二元制約説(12条・13条訓示規定説)
 ③一元的内在制約説(「公共の福祉」内在制約説)

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