本記事では、子どもに対して、憲法上の人権は保障されるのかについて解説します。
子どもに憲法上の人権は保障される?
・胎児については議論が分かれている
→日本においては、優生保護法により中絶権を認めているため、あまり問題とならない
・出生以降であれば、当然に人権の享有主体となる
単に子どもの人権といっても、胎児か、出生以降かで議論が変わってきます。
そこで、まずはじめに、胎児の人権について検討していきます。
胎児の人権
子どもの人権として、まず議論となるのが、「胎児の人権」です。
この問題については、人工妊娠中絶との関係で、特に欧米において議論が分かれています。
アメリカにおいては、1972年の連邦最高裁判所により、国としての規制は認められないとの判断が下されていますが、中絶を禁止している保守的な州も未だに存在します。
このようなケースでは、規制利益と中絶権などをめぐって議論となります。
一方、日本においては、刑法上、堕胎罪が存在しますが、優生保護法によって中絶権を例外的に認めているため、あまり問題となりません。
出生以降の未成年者の人権
子どもについても、大人と同様に、当然に人権の享有主体となります。
しかしながら、大人とまったく同一の内容の人権が認められるわけではありません。
憲法上や立法によって、未成年者ならではの人権制限・保護の規定が存在しています。
どのような人権制限・保護規定があるのか、各条文を検討していきましょう。
憲法上の制限規定と保護規定
憲法上の制限規定:第15条第3項
憲法上の保護規定:第26条第2項・第27条第3項
憲法は、未成年者があるが故に、未成年者の人権に一定の制限を加えています。
その根拠は、憲法第15条第3項にあります。
公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
憲法第15条第3項
本規定により、選挙権は、未成年者には憲法上保障されません。
また、未成年者であるが故の、一定の保護規定を設けられています。
その一つに、「子女に教育を受ける権利」を保障している憲法第26条第2項が挙げられます。
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
憲法第26条第2項
また、憲法第27条第3項に規定されている「児童酷使の禁止」についても、未成年者保護のための規定です。
児童は、これを酷使してはならない。
憲法第27条第3項
本規定は、歴史的に、未成年者が劣悪な労働環境に置かれてきたことを念頭に規定されたものです。
この「児童酷使の禁止」の規定は、憲法が直接私人間にも適用されると解される規定です。
(私人間効力が初めから想定されている条文について、詳しくは別記事で解説しています。)
立法による制限
また、憲法による制限だけでなく、立法による制限も存在します。
代表的なものでいえば、飲酒や喫煙の禁止(未成年者飲酒禁止法・未成年者喫煙禁止法)が挙げられるでしょう。
ほかにも、婚姻年齢の規定(民法第731条)や、財産権の行使(民法第824条・859条)、青少年保護育成条例などによる一定の制約が存在しています。
制約の正当化根拠
制約の正当化根拠:「限定されたパターナリズム」
では、なぜ、これらの制約が許されるのでしょうか。
その根拠として、「限定されたパターナリズム」が挙げられます。
つまり、未成年者が人としての(精神・肉体ともに)成長過程にあり、成年者と比較しても未熟であることを規制の正当化根拠とします。
ただし、未成年者の特別扱いを区切る年齢については、その都度正当性を考える必要があります。例えば、未成年者を対象としたある規定に、5歳と15歳の者を同一に扱ってよいのかといった問題は、また別に議論される必要があるでしょう。
まとめ
◎子どもに憲法上の人権は保障される?
:胎児については議論が分かれている
→日本においては、優生保護法により中絶権を認めているため、あまり問題とならない
:出生以降であれば、当然に人権の享有主体となる
◎憲法上の制限規定・保護規定
・憲法上の制限規定:第15条第3項
・憲法上の保護規定:第26条第2項・第27条第3項
◎制約の正当化根拠:「限定されたパターナリズム」