本記事では、政教分離原則が必要である理由と、政教分離原則の具体的な保障内容について検討します。
政教分離原則が必要である理由
①異教徒・無宗教者に対する迫害や圧迫を防止
②結びついた宗教の堕落を防止
政教分離原則が必要とされる理由として、第一に、異教徒・無宗教者に対する迫害や圧迫を防止することが挙げられます。
というのも、そもそも私たち個人には、憲法によって信教の自由が保障されており、信仰や宗教的活動、宗教的結社の自由が認められています。
(※信教の自由については、別記事で詳しく解説しています。)
そして、信教の自由を実質的に保障するためには、その信仰や活動に際して、国家からの干渉を受けないことが必要になってきます。
例えば、明治憲法では信教の自由を規定しており、「臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」保障されるとしていました。
ところが、この「臣民タルノ義務」というのは「神道の信仰」であったため、実質的に信教の自由は存在していなかったといえます。
国家が神道の信仰を強制していたことが、信教の自由を否定することにつながってしまったのです。
そこで、このようなことが起こらないようにするためには、国家と宗教の結びつきを無くす必要が出てきます。
すなわち、国家と宗教が結びつくことによって、異教徒や無宗教者への迫害や圧迫が起き、ひいては信教の自由の否定につながりかねません。
ですから、こうした異教徒・無宗教者に対する迫害や圧迫を防止するために、政教分離原則が必要となるのです。
また、政教分離原則が必要となる理由として、第二に、結びついた宗教の堕落を防止することが挙げられます。
国家が宗教と結びつくことにより、その宗教を背景に「人権侵害」や「軍国主義化」などを推し進める場合があります。
そうなれば、宗教自体が落ちぶれてしまいかねません。
ですから、こうした宗教側の立場から見たとしても、国家と宗教を引き離す必要が出てくるのです。
政教分離原則の保障内容
①特権付与禁止(20条1項後段)
②宗教団体の政治的権力行使の禁止(20条1項後段)
③国家による宗教活動の禁止(20条3項)
では、国家と宗教を切り離す必要があるといっても、具体的には、国家のどのような行為を禁止する必要があるのでしょうか。
これについて、まず、日本国憲法第20条1項後段においては、以下のように規定しています。
いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
日本国憲法第20条第1項後段
また、憲法第20条3項においては、以下のような規定があります。
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
日本国憲法第20条第3項
つまり、これをまとめると、日本国憲法における政教分離原則とは、具体的には以下の3つを指しているということができます。
①特権付与禁止(20条1項後段)
②宗教団体の政治的権力行使の禁止(20条1項後段)
③国家による宗教活動の禁止(20条3項)
ここからは、これらの3つの原則を、それぞれ個別に検討していきたいと思います。
①特権付与禁止
まず、特権付与の禁止です。
つまり、特定の宗教団体やすべての宗教団体に対して、利益を与えたり優遇的な地位を与えることを禁止します。
ただし、これには例外があります。
1つ目の例外は、宗教法人に対する優遇税制です。
これは、宗教法人であることを理由に税制を優遇しているのではなく、公益法人であることを理由に優遇しているためです。
また、2つ目の例外は、文化財の保護のための公金支出や税制です。
これは、宗教的な文化財であるとしても、建物の文化的な価値に着目して行われるものであるため、許されるものと考えられています。
②宗教団体の政治的権力行使の禁止
次に、宗教団体の政治的権力行使の禁止です。
具体的には、立法権や裁判権などの、本来国家が独占すべきである統治的権力を、宗教団体が行使することを禁止します。
これにより、宗教団体によって、政治的権力を掌握・行使されることを防ぎます。
③国家による宗教活動の禁止
最後に、国家による宗教活動の禁止です。
例えば、国家が特定の宗教の信仰を勧めたり、逆に特定の宗教を非難したりする教育が禁止されます。
他にも、「国家による宗教活動」に当たるか否かにおいては、総理大臣による靖国神社の参拝が度々問題となっています。
国家と宗教の結びつき
以上のように、日本国憲法においては国家と宗教の結びつきを無くすため、政教分離原則が規定されています。
ところが、現実問題として、国家と宗教の結びつきを”完全に”無くすことは不可能です。
例えば、宗教的な私立学校であったとしても、国からの補助金なしに運営することは厳しいでしょう。
また、国鉄時代の駅構内に、クリスマスツリーを飾ったことが、政教分離原則に反するのではないかということが問題となったこともありました。
このように、国家と宗教の結びつきをゼロにすることは現実的に難しいため、どこまでであれば憲法上許容されるのかが問題となります。
その違憲審査の基準として、「レモンテスト」や「目的効果基準」、「エンドースメントテスト」が用いられますが、これについては別記事で詳しく解説しています。
まとめ
◎政教分離原則が必要である理由
①異教徒・無宗教者に対する迫害や圧迫を防止
②結びついた宗教の堕落を防止
◎政教分離原則の保障内容
①特権付与禁止(20条1項後段)
⇔例外:宗教法人に対する優遇税制・文化財の保護のための公金支出や税制
②宗教団体の政治的権力行使の禁止(20条1項後段)
③国家による宗教活動の禁止(20条3項)
◎国家と宗教の結びつきを”完全に”無くすことは現実的に不可能
→どこまでが許されるのかの審査基準として、レモンテスト・目的効果基準・エンドースメントテストが用いられる